一般にジョン・コルトレーンというと、激しくブロウする姿をイメージする人も多いだろうが、その一方で情感豊かなバラード演奏にも真価を発揮した。優れたジャズマンはみなブルースとバラードの名手であり、コルトレーンも例外ではなかった。
バラードを演奏するときのコルトレーンは、シンプル&ストレートにメロディを歌いあげる。シーツ・オブ・サウンドもフェイクもご法度だ。要するに歌手になったつもりで、サックスで歌っているのだ。コルトレーンにとってバラードの演奏は、常に前進することを自らに課した壮絶な戦いの日々のなかで、一瞬その強迫観念から解放される、いわばつかの間の戦士の休息だったようだ。
聴く側にとってもそれは同様で、バラードを演奏するコルトレーンに接していると心が和む。その意味では、最高のヒーリングミュージックといえる。だから本作は、コルトレーンの数多いアルバムのなかで、いつの時代にもファンから支持される人気ナンバー1作品なのである。これぞコルトレーンバラードの極致だ。(市川正二)

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